新緑 爽やか
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



六月というと
“梅雨入り”という風物詩
(?)がまずはと連想されるのだが、
実質 鬱陶しい雨天が続くのは、
案外と七月を目前としてから…というくらい遅いのが定番で。
それよりも先に、
一足早い初夏のような日和が続いた中で、
やっとのこと 半袖の制服を着てもよくなる
“衣替え”が来ることで、
道行く人々なぞに暦の流れを伝えてくれたりして。
一昔前だと、節句ごとにきっぱりと気持ちを切り替え、
ついでに箪笥も中身を入れ替えて。
春になったから綿入れは着ないだの足袋は履かぬだのという、
着るものやお洒落へも“粋”を貫く人がいたものだったが。
今時のフリーダムな世情では、
そんなやせ我慢をするだなんて、
せいぜい女子の人が
残暑厳しい中でファーつきの小物をあしらったお洒落を頑張ったり、
逆に、寒空にミニスカートを履くくらいのもの。

 「まあ、今時は機能性下着ってのがありますし。」
 「それに、建物の中や地下街なんぞへ入れば、
  暑さも寒さもあんまり関係ありませんしね。」

そういう方面への努力や我慢も、
一頃ほど“大変”じゃあなくなったと評したお嬢様二人。
ミニスカート履きたガールの、白百合さんこと七郎次お嬢様にしてみれば、
暑い寒いより自慢の美脚をいかに映えさせるかの方が重要なのだし。
彼女ほど“我慢”はしないまでも、
やっぱり流行のかあいらしいカッコには目がない、
ひなげしさんこと林田さんチの平八お嬢様もまた、
同感ですと大きく頷いており。

  とはいうものの

そんなことより、今日からこちらに衣替えとなった夏服のあちこちが、
しわになっていないか、畳み癖がついてはないかの方が気にかかり。
恥ずかしいことになってませんかと、
お互いに確かめ合っていたりするところは、
まだまだ可愛らしい級のお嬢様がたでいらしたりして。
こちらの女学園の夏服は、
合服冬服では上下ともに紺色基調だったセーラー服の、
ブラウスの袖と身頃部分だけが白に差し替えとなり、
どんどんと明るくなる陽を弾いて、なかなかに爽やかな見栄え。
駅から出て来てそのままゆるやかな坂をゆく女学生たちの流れが、
そのような装いへと一変することで、
ああそうか、そんな時期かと、
ここいらの皆様も季節の入れ替えを感じるそうであり。
柔らかだった若葉の発色が次第に落ち着いて来て、
さまざまな緑があふれる中。
細い肩を覆う白い制服や、そこから伸びる嫋やかな白い腕が、
女子高生らの若々しさや瑞々しさを、
ますますと目映く見せてもいるのだが、

 「スーパー・クールビズは採用されぬのか。」

日焼け止めの新製品が、そろそろ出揃ってますよね、
そうそう、今年のは特にしっとり仕上がりのが多くて…と。
今時の話題を取り交わしていた、白百合さんとひなげしさんに
やや遅れたか後方から追いつく格好、
声だけを先にお届けしたのは誰あろう、

 「おや、久蔵殿。」

やはりやはり、白いセーラー服へと衣替えをなさったばかりで、
軽やかなカールのかかった金髪や色白な細おもてが、
(カラー)の濃紺にいや映える。
紅ばらさんこと三木さんチの久蔵お嬢様が、
はろぅと片手を挙げてお友達二人へご挨拶したものの、

 「まだ朝のうちは涼しいほうでしょうに。」

今日は普通登校だが、
剣道部の大会前なぞは、
朝練があっての早めに出て来ることもある七郎次が、
ちょっぴり跳ねていた後ろ髪をちょいちょいと整えてやりつつ、

 「五月のうちは早く半袖にならないかと待ち遠しかったけれど、
  今日からは逆にカーディガンが要るかもって案じてたほどですよ?」

でもまあ、そうと言いたい気持ちも判ると、
七郎次が苦笑気味なのは。
こちらの久蔵お嬢様、実は暑さにやや弱く、
下手に無表情のままで我慢をするものだから、
何も言わないままいきなり倒れて周囲を慌てさせる、
困った方向での頑張り屋さんだったりし。

 「でも、半袖の初日がこうもいいお日和だというのも、
  久々じゃあありませんか?」

髪を直して差し上げたついでに、
よしよしと撫でてくれた白百合さんへ、
せっかく直してもらった髪を“ごろにゃん♪”と擦りつけて
可愛らしくも懐いている紅ばらさんなのへ、
周囲の皆様が声なき嬌声を上げて きゃあとはしゃぐ。
そんな中を厳粛な佇まいの校門まで向かいつつ、

 「そうですよね。
  昨年度だって、クールビズ初日とか言われて
  かりゆしを来て出社したサラリーマンさんが取材されてましたが、
  鳥肌立ってますって苦笑してらした。」

さすが、時事ネタはお任せのひなげしさんが苦笑をしたように、
今年もまた、初日は寒いのじゃあないかと思ってた皆様が多かったようで。
学校指定のカバンに添えられた、レッスンバッグや紙袋へ、
やはり指定されている型のそれ、
濃色のカーディガンを入れて持参という顔触れが、
ザッと見回しても半数はおいでの模様であり。

 「だって先週まで、
  なかなか落ち着かないお天気でしたし。」

突然の突風が止まなかったり、雹が降ったり。
竜巻で被害が出たところもあり、
とどめは にわか雨に必ずついて来た落雷。
それは爽やかないいお天気だったはずが、
一転 にわかに掻き曇り。
昼間とは思えぬ暗さの中、
遠いうちのゴロゴロ・ガラガラという響きから、
ぱりぱりぱりっという、
鋭く玻璃を打ち破るよな、
凄まじい雷鳴が間近でしたかと思うや否や。
カカッと辺りを白く染め、
ぱしぃっと天穹を走るは白龍の飛翔か。
自宅にいるならともかく、学校で授業中では逃げるもままならぬ。
とはいえ、怖いものは怖いのでと、
先週先々週は、こちらの学園でも
日によっては学舎じゅうから悲鳴が轟いたほどの騒ぎだったりし。

 『きゃあっ。』
 『今、いま光りましたよねっ?』
 『ええ、確かに…、きゃっ!』

  窓辺の席だと危ないのでは?
  わたしも聞きました、それ。
  シスター、この時間だけ机を廊下側に寄せていいですか?
  判りました、急いで皆さん…と。

シスターまで本気で取り組んだ教室もあったらしいと聞いている。

 『いやっ、怖いっ。』
 『近くないですか?』

降って来たらば感電しかねぬ落雷のおっかなさには、
被害に遭われ、重篤になられたお話などが
連日のように報道されていることもあり、
良家の令嬢でなくたって、少なくはない恐怖を覚えもするだろに。

 『三木様、窓際は危のうございますっ。』
 『もちょっと こちらへお寄りください。』
 『林田様、そんな金ものをお持ちだと落ちますよ?』
 『草野様、直に見るとお眸が傷みますよ?』

おーおー、ぴかぴか賑やかだなぁと、花火レベルで窓の外を眺めていた久蔵や、
授業中の内職とばかり、小さなドライバーをいじってた平八、
あらまあ、今のって道場の裏のクヌギの樹に落ちたんじゃあと、
わざわざ背伸びしかかった七郎次という、
相変わらずの豪傑たちにも、その行動へ悲鳴が上がっていた辺りが何ともはや…。

 「そいや、久蔵殿。コーラス部の方でも用心棒だったとか。
 「???」
 「何の話です、ヘイさん?」

何を指して言われているのか判らない久蔵なのはともかく、
初耳な話だと七郎次が小首を傾げれば、

 「ほら、午後のほうこそ にわか雨も多かったじゃありませんか。」

前校庭の木洩れ陽の中を歩みつつ、
愛らしい輪郭の人差し指を立て立て、ニコリンと微笑って見せた平八曰く、

 「練習中に雷が鳴り始めたその途端、
  皆さん 蜘蛛の子散らすように
  コーラスそっちのけで音楽室を逃げ回ったそうで。」

そんな中、
ピアノの前から動かなかった久蔵殿の方へ
逃げた何人かがいて、
勿論のこと 狙ったものじゃなく、
無意識の行動だったんでしょうけれど、

 『あれ、怖いっ。』
 『三木様、怖い。』

紅ばら様がおっかないという意味じゃあなかったのは判るとして、(おい)
古くは一子様を●●から庇って差し上げた一件があったように、
こんな風にあられもなく頼られると
母性だか父性だかが めきょっと目覚める性分ででもあるものか。
すがって来た、その折は二人ほどのお嬢様がたを
双腕広げて懐ろへ掻い込むと
“いい子いい子・よしよし”と肩や頭を撫でて
怖くないよと宥めて差し上げたんだとか。

 「……なんで。」
 「帰宅部の私が知っているのか、ですか?」

昇降口にたどり着き、黒革の靴を脱いでの簀の子の上へ上がりもって
久蔵殿が重ねて訊いたのへは、

 「コーラス部のお嬢さんたちも、ウチのご贔屓さんですものvv」

厳密には“寄り道禁止”という校則ではあるが、
部活の帰りなどは小腹も空く。
そこで、まま 何かにつけ明けっ広げな明るいお店だし、
学園のご近所で、催し物にはお菓子を搬入なさってもいると聞くほど
先生やシスター、職員の皆様方からも信用ある甘味処なのでということか、
平八の居候先“八百萬屋”は
半ば公然と…制服姿のままでもあまり咎められずに
皆様 帰り道の途中で立ち寄って行かれるお店でもあり。

 「そんな美味しい話、
  誰ぞに話したくなったってしょうがないでしょう?」

匿われた子より、目撃した側の子がって格好で聞いたんですがと、
おまけのポイントを付け足してから、

 「金の前髪の陰で伏し目がちになった紅ばら様の、
  そりゃあ落ち着いたお顔が間近になったなら、
  わたくし、そちらに動転してしまって目が回るかも知れませんとか。」

いい匂いがしたそうですよとか、
雷に打たれないおまじないを教えてらしたとか。
どこまでホントかは怪しいものですが、
その噂で持ち切りでしたよと、
そりゃあ楽しそうに、でもでもこっそり語るひなげしさんだったのへ、

 「まま、久蔵殿は頼もしいって印象がありますものね。」

アタシにはかあいらしいお人ですけれどと、
白百合さんが付け足した一言のほうへこそ、
やや戸惑い気味のお顔ながらも ほわんと頬を染める辺りは。
確かに“かあいい”の範疇でしょうよねと、
尚のこと微笑ましいというお顔になった平八も、
手慣れた動作で上履きへと履き変えてのさて、

 「今日はお二人とも早あがりでしょう?」

だったらにわか雨への警戒も要らないと思いますよと微笑った平八。

 「よければウチへ寄ってって下さいな。」

夏のデザートも増えましたよと、甘いお誘い振り向けたりし。
梅雨の雨とも一味違う、
暴れん坊の雷雨とは まだまだご縁が続きそうだけど。
こちらお三華様たちには さして脅威でもないようで。

  「……あ、でも。」
  「???」
  「どうしました? ヘイさん。」

いえね、先週の頭にやっぱり物凄い夕立が降ったじゃないですかと、
教室まで向かう途中の踊り場の端っこで、
ついついおでこを寄せ合った三人娘。
あとの二人がうんうんと頷いたのを確かめてから、

 「不思議なもんで、あのあの、///////」

微妙に、今更、もじもじと含羞みめいたお顔になったひなげしさん。

 「ゴロさんの前だと、日頃以上に肩がびくびくぅって震えたり、
  何でか怖いって感じたりするから不思議なんですよねぇ。」

消え入りそうな声でそうと告げたまんま、きゃ〜んっと頬を押さえた彼女だが、


  「……………あ。////////」×2


ほぼ同時にやはり頬が赤くなった誰かさんたちだったりするから、
罪がないといいますか、こっち方面では隠しごとが下手だと言いますか…。
窓のそばではアジサイの大きな葉が緑風を受けて揺れていて、
ツバメの陰が ついとよぎった、
そんな水無月の始まりの日でした。






      〜Fine〜  2012.06.01.


  *隠しごとが下手ということは、
   おシチちゃん、いつぞやの○○○の朝帰りの話も
   お二人にはバレてるとか?

    「朝帰りの話?」
    「???」
    「やっ、あのっ、
     なななななんでもありませんてば。/////////」

   おやおやぁ?
(苦笑)

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